第8章 猫は紅い血に染まる
「鈴音.... もう.... どこにも行かないで.... 」
何処かへ消えてしまいそうな儚い表情が堪らなく胸を締め付けた。
どうしてそんな悲しそうな顔をするのか
どうしてそんな悲しそうに言葉を紡ぐのか
私には何一つだってわからない。
そっと頬を両手で掴む。
何処を見ているのかわからない、黒い黒い瞳
絶望を写しているような
悲しみを写しているような
貴方はその目に何を写しているの?
かすかに聴こえるのは、自分の心のなかの小さな声....
お願い、その人を悲しませないで
その人を一人にしないで
ー助けてあげてー
その声に、私は一松くんの唇を自分の唇で塞いだ。
冷たい唇の感触、初めて自分から人へキスをした。
上手くできているかなんかわからないけど、そうせずにはいれなかった。
目を大きく見開いて、私を見つめる一松くん。
やっと写してくれた、私のことを....
この感情がなんなのか私にはわからない。
憐れみ?同情?それとも?
ただ悲しませたくないという気持ちだけが強く。
この胸の鼓動さえも、一松くんを救うものだと大それた事を考えながら....
言葉を発することさえも忘れて、彼の腕のなかに飛び込む。
この感情が何だったとしても、後悔はしない....