第5章 おやすみなさい
十四「ヨイショー!!」
人数分の湯呑みにお茶を注ぎ終えると、十四松さんがトレイを持ち上げた。
『えっ?私が持っ』
十四「美味しいご飯作ってくれたから!」
『…。』
十四松さんの紳士的な行動と温かい言葉に思わず固まる。
『…おっ、お願いします!』
私は潤んだ目を隠すように慌てて頭を下げた。
十四「あい!」
元気よく返事をすると、トレイごと頭に乗せてキッチンを出て行った。
…凄いバランス力だな。
『今のうちに食器洗って片付けてしまおうかな…』
それから食器を洗っていると、誰かが入り口からにょきっと顔を出した。
一「どうも…。」
『あ、』
一松さん…だっけ?
どうしたんだろう?
一「食洗機、あるのに。」
『えっ、そうなんですか?』
気が付かなかった。
…というよりその発想が無かった。
一「コーヒー淹れに来ただけだから。」
『あっ、すみません。コーヒーの方が良かったですか?』
一「いや大丈夫。今からちょっと仕事するだけだから、そのお供。」
『そうなんですね。すぐ淹れます。』
一「あー、自分で入れるから大丈夫。続けて。」
『す、すみません…。』
一「…。」
私は食器を洗いながらも、コーヒーのドリップを待つ一松さんをちらりと横目に見る。
六つ子だから顔は同じはずなのに…全然似てないんだな。
特に一松さんと十四松さんは真反対のように感じる。
一「何?」
『…!』
慌てて視線を手元に戻す。
一「僕の顔に何か付いてるかな。」
『…!?』
私の方を見てないどころか、向いてもないのになんで…!
一「ちなみに食洗器の使い方。」
『ひっ!?』
いつの間にか至近距離にいる一松さんに思わず私は身体をびくりとさせる。
この人普通じゃない…!怖い!!
私が分かりやすくビクビクしていることも気にせず、一松さんは丁寧に食洗機の使い方を説明してくれた。
『ありがとうございます…。』
一「いえいえ。良い時間潰しになったし。」コポポ…
優しいのか怖いのか、よく分からない人だな…。
一「あの、」
『っはい?』
一「あとは食洗機に任せて戻れば…?お茶、冷めるし。」
『…。』
一松さん…。
優しい…のかな。
『はい、そうします。お気遣いありがとうございます。』
一「いえいえ。じゃまた…。」