第27章 -偶然か必然か-(黒尾鉄朗)
-黒尾side-
先月くらいから、取引先に行くたびに帰りに寄るようになったカフェ。
先月から頼むようになったのは、
ショット追加の無脂肪ミルクのトールサイズのカフェラテ。
席は…一番角の席が見える席。
角の席は、彼女が座るから。
取引先行ったあと、最近は毎回…帰りに寄るようになった。
彼女に会いたくて。
初めて彼女を意識した日は、すんげぇ長い打ち合わせでかなり疲れて、今日は残業確定だし、カフェイン入れて頭働かせて会社に戻ろう…そう思ってカフェに入った。
いつも普通のコーヒーしか飲まないけど、それじゃあ物足りない…というか、とにかくカフェインが欲しかった。
「はぁ…甘いのばっかだよな…コーヒー屋だろ?もっとコーヒー濃いのないのかよ…」
「カフェラテにエスプレッソ追加したら、濃くなりますよ?」
「…っ⁈」
レジで並んでる間に渡されたメニューを見ていると、突然オレの前にいた彼女がクルリと振り返って話し掛けてきた。
「エスプレッソショット追加すると濃くなって、美味しいですよ。わたしはトールサイズのカフェラテにショットを追加するのが好きです♪コーヒーよりミルクはたっぷりだけど、優しい味だし、甘さというか脂肪分少なくするなら、無脂肪ミルクに変えるとか…」
「…?」
オレが黙って不思議そうにしていると、彼女のほうが不思議そうな顔をしていた。
「急にごめんなさい‼︎でも…濃いコーヒー飲みたかったんじゃないんですか?」
「…っ⁈」
そこで初めてオレは自分の心の声がダダ漏れだったコトに気付く。
「ふふ…お疲れなんですね。美味しい飲み物に癒されてくださいね。」
彼女はニッコリしてそう言うと、先にレジに進み、慣れたようにドリンクを注文して、あの角の席に座った。
決めかねていたオレは、彼女のアドバイス通り、ショット追加の無脂肪ミルクのカフェラテを初めて頼んだ。
たしかに今まであまり飲まなかったカフェラテがうまかった。
彼女の言う通り…甘くなくて。
それ以来、オレはこのカフェで、ショット追加の無脂肪ミルクのカフェラテを頼み、気がついたら彼女を目で探すようになっていた。
たまに見つけるとドクンと胸が高鳴る。
だからといって何か話すわけではない。
そもそも、あの時彼女が一方的に話しただけで、オレは返事すらできていないのだから。