第27章 -偶然か必然か-(黒尾鉄朗)
つぅか、オレ…ストーカーかよ⁈
ここ一ヶ月の自分を思い出し、自分自身でビックリする。
向こうはそんなオレとの会話、覚えているわけもないし、覚えていたとしても、ただ親切で教えてくれただけ。
一瞬話した(オレは話してねぇけど)だけで、また会いたい…話してみたい…とか思うオレって…どうなんだよ…。
そう自分に突っ込むのに、取引先に行く日があると、胸が高鳴るのは事実で…。
冷静な自分と感情のままに動く自分。
だから、あの日は心底驚いた。
あの日は彼女はいなかったけど、それなりに混んでいて、たまたま空いていたあの角の隣の席でオレはいつもの…になったカフェラテを飲んでいた。
少しして仕事の電話が入ったので、一度外に出た。
電話が終わって席に戻ると…
あの彼女がいた。
さっきまで違う人が座っていたオレの隣のあの角の席に…。
しかも、なぜか今はオレの席の前で立っていて、店員までいる。
「あの…?」
オレは必死で冷静を装い、話し掛けた。
胸の高鳴りがバレないように…。
「あの‼︎すみません‼︎わたしがコーヒーこぼしてしまって…。コーヒー、弁償します‼︎」
「あ…いや…」
間違いない。あの彼女だ。
あの時以来聞く彼女の声にオレは思わず固まってしまう。
「コーヒーはもう一度ご提供するから大丈夫ですよ。」
オレが固まっていると、店員が丁寧に申し出てくれるが、オレは深呼吸してその申し出を辞退した。
「いや。もう帰ろうと思ってたんで、大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
「かしこまりました。」
店員が戻っていき、オレは必死で頭を回転させていた。
何か彼女と…
そんなオレの邪な気持ちを知ってか知らずか、彼女はまたオレに謝ってくれる。
オレはハッとして、いわゆる営業スマイルで、「気にしないでください」とだけ伝え、席に座ると、彼女も安心したようにオレの隣の席に座った。
どうするか…どうするべきか…
せっかく話せるチャンス…ココで逃すわけにはいかねぇ。
帰り際に声を掛けようと思っていたら、思いがけず、彼女から話し掛けてくれた。
「あの‼︎本当にすみませんでした…」
「いいって。気にしてねぇし。」
気遣いのできる丁寧な人なんだな…。
気にするどころかこっちはキッカケができて浮かれてるっつーのに。