第8章 Testimony
車を走らせること約一時間。
目の前に広がるのは、何処にでもある住宅街の風景だ。
「あそこで“侑李”が働いてる」
岡田が車を路肩に停め、フロントガラスの向こうを指差す。
ゆっくり岡田の指が指し示す方向に視線を向けると、そこには閑静な住宅街には不釣り合いな、古びた工場があった。
周りの風景には到底そぐわないその佇まいは、昔からある町工場、と言った所だろうか。
「施設を出た後、“侑李”はここで住み込みで働いてるらしい」
「身寄りは?」
「赤ん坊の時に捨てられたらしいからな…」
岡田の口が淡々と語る事実に、俺は智君と侑李が歩んで来た不遇を重ね合わせた。
智君が侑李を弟のように可愛がっていた理由が、少しだけ分かった気がする。
「よし、行くか…」
エンジンを止め、岡田が運転席のドアを開けた。
俺と深山さんもドアを開け、車から降りると岡田の後に続いた。
工場が近付くにつれ、響く金属音と、鼻をつく機械油の匂い。
「先日お電話させて頂いた岡田ですが、侑李君は…」
岡田が工場の脇に設けられた喫煙所で煙草をふかす、長身の男に声をかけた。
油に塗れた作業服を見る限り、この工場の関係者に間違いはないだろう。
男は簡易的に設置された灰皿に煙草を揉み消すと、首にかけたタオルで手の油を拭った。