第8章 Testimony
資料に目を通し終えると、分厚いファイルをパタンと閉じて深山さんが顔を上げた。
そして、すっかり温くなったコーヒーを一気に煽ると、リュックを背中に背負った。
「さ、行きましょうか?」
深山さんが徐ろに席を立つ。
「あの、何か分かったんですか?」
不安げに訊く俺を、深山さんのニコニコ顔が見下ろす。
「いいえ、なんにも」
極上の笑顔が俺に向けられる。
な、なんなんだこの人は…
「あ、あの…っ!」
まるで巫山戯ているとしか思えないその態度に、思わず声を荒らげてしまう。
岡田がいなかったら、多分胸ぐらの一つでも掴んでいるような、そんな勢いだった。
「櫻井、行くぞ」
俺の肩をポンポンと叩き、岡田がニヤリと笑って腰を上げた。
「行きましょ、櫻井さん?」
ニコニコ顔とニヤニヤ顔が俺を見つめる。
「はぁ…行くよ…」
俺が観念するのを待って、二人が出口に向かって歩き出す。
重い腰を上げ、俺は前を歩く二人の後に続いて茂さんの店を後にした。
そして事務所所有の駐車場に着くと、岡田が助手席のドアを開けてくれた。
俺は迷うことなく車に乗り込むと、シートベルトをかけた。
「深山、お前も早く乗れ」
運転席に座り、深山さんに向かって顎をしゃくる。
「へいへ〜い」
深山さんが後部座席に乗り込むのを待って、車はゆっくりと走り出した。