第8章 Testimony
チリンチリンと音を立てて開くドアから、茂さん自慢のガラス製のサイフォンで淹れたコーヒーの匂いが漂う。
「いらっしゃい」
茂さんの明るい声が俺達を招き入れる。
「お連れさん、奥で待ってはるで?」
「どうも」
相変わらずのおっとりした笑顔に、軽く頭を下げて岡田に続く。
店の一番奥の席に着くと、両耳に指を突っ込み、目を閉じて居眠りをする男が座っていた。
「この人が?」
小声で訊く俺に、岡田が呆れたように笑って一つ頷く。
「おい、深山?」
岡田が声をかけるが、その人の耳には届いていないのか、反応はおろか、身動き一つしない。
当然だ。
深山さんの耳は、彼自身の指で塞がれているんだから。
岡田の声など届く筈もない。
岡田と並んで深山さんの前の席に座ると、岡田が深山さんの額にデコピンをくらわした。
「………っ!」
本当に眠っていたのだろうか、深山さんが驚いたように目を見開いた。
そして岡田のデコピンを受けた額を、耳から引き抜いた手で摩った。
「痛いよぉ、岡田~」
俄かに気の抜けた声で文句を言う深山さん。
「さっきから声かけてたんだけどな? 気付かないお前が悪い」
呆れたと言わんばかりに、岡田が溜息を一つ零した。