第7章 Order
「馬、馬鹿野郎、勘違いしてんじゃねーよ!」
井ノ原先生が慌てた様子で、俺の勘違いを正そうとする。
「俺が言いたいのは、相談に来いってことだよ」
ガックリと肩を落とし、大きな溜息を一つ落とすと、井ノ原先生が悪戯でも思い出したように口角をキュッと上げた。
「仮病使うの忘れんなよ?」
ニヤリと笑って、空いた手で俺の頭をガシガシと撫でる。
「分かったよ…」
「よし。んじゃ、俺行くわ」
半分以上食べ残したトレーを片手に、井ノ原先生が部屋を出て行こうとする。
「あっ、待って…」
その背中に声をかける。
「ん? どうした?」
白衣の裾を翻し、井ノ原先生が俺を振り返った。
「それさ、置いてってよ…。アイツ取りに来るから…」
マサキが来るから…
マサキのことを愛してるわけじゃない。
でもアイツの気持ちに応えたい…そう思ったのは嘘じゃない。
それに、誰でもいい…
傍にいて欲しい…
そう思ったのも…
「…そか。そうだな…。でもな大野…?」
トレーをサイドテーブルに乗せると、空いた手を白衣のポケットに突っ込んだ。
「まぁ、こんなこと言うのもなんだが…」
言い難そうに口籠る井ノ原先生の表情が険しくなる。
その様子から、井ノ原先生が何を言いたいのか、俺は瞬時に察することが出来た。