第7章 Order
瞬間呼び起される記憶。
独居房で俺を拘束した上に、無理矢理抱いたあの男。
アイツの指にも確かリングが嵌まっていた筈。
もしかして、井ノ原先生が…?
いや、そんな筈はない。
この見るからに人の良さそうなこの人に出来る筈がない。
それに第一声が違う。
あの時のアイツの声は、今でも耳の奥に焼き付いて離れない。
思い出したくないのに…
「どうした? 顔色悪いぞ?」
手を止め、黙り込んでしまった俺を、心配顔の井ノ原先生が覗き込む。
「い、いえ、何でもないです…」
すっかり失せてしまった食欲に、俺は手に持ったままだった箸をトレーに揃えて置いた。
「もういいのか?」
「…ごちそうさまでした…」
井ノ原先生が俺の前からトレーを下げ、それを手に椅子から腰を上げた。
「さ、そろそろ行かないとな」
柔らかい笑顔が俺を見下ろす。
「なぁ、大野? クドイ様だが、もう二度とすんなよ?」
「…分かってるよ」
何度も繰り返される言葉に、半ば辟易としながらも言葉を返す。
「もうしないから…」
俺が言うど井ノ原先生の顔が一瞬真剣な物に変わる。
「もしも…もしもまた逃げ出したくなったら、俺の所へ来い」
愛の告白にも受け取れるような言葉に、俺の顔が熱くなる。