第7章 Order
井ノ原医務官の診断通り、2、3日もすると俺の熱もすっかり下がり、自力でベッドから起き上がることも出来るようになった。
「熱も下がったし、もう心配はなさそうだが…一応大事をとってもう一泊しとくか?」
カルテにサラサラっとペンを走らせると、井ノ原医務官が一つ伸びをする。
「なあ、大野? もうすんなよ?」
マサキが運んで来た食事を口に運ぶ手を止め、井ノ原医務官を見る。
「あえて聞くつもりはない。だがな、死んだって何も変わりゃしないよ? 自分から逃げるなよ?」
夢の中で翔が言ったのと、まるっきり同じこと言いやがる。
もういい加減聞き飽きたよ…
「何を言い出すかと思ったら、説教? 安心してよ。もう“変な気”起こしたりしないからさ…」
マサキと約束したしな…
「そっか…なら安心した」
井ノ原医務官が顔を綻ばせる。
「そんなことよりさ、先生は俺のこと、その…」
笑顔が一瞬にして真顔に変わる。
そして顎に手を宛て、腕を胸の前に組む。
首を軽く捻る。
“癖“なんだろうな。
それから漸く口を開くんだ。
「確かにな? 魅力を感じないわけじゃないよ? でも俺にはコレがあるからな」
そう言って左手をヒラヒラさせて見せる。
薬指に嵌ったシルバーのリングがキラリと光った。