第7章 Order
「サトシ、オレ…」
触れるだけのキスを交わし、マサキが言いかけた時、医務室のドアがノックされた。
「ハ、ハイッ!」
マサキが俺の代わりに返事をする。
ゆっくり開かれたドアの隙間から入って来たのは、白衣を身に纏った医務官だった。
瞬間マサキが慌てたように握ったままの手を解き、姿勢を正して椅子から立ち上がった。
「意識が戻ったようだな?」
他の看守とは違う、柔らかな口調と物腰。
「あぁ、君はもう戻りなさい。刑務作業中だろ?」
ふと壁の時計に視線を向けると、医務官の言う通り、他の受刑者達は刑務作業に取り組んでいる時間だった。
「はい。6031番作業に戻ります」
マサキが軽く頭を下げて、ドアに向かって歩き出す。
その背中に医務官の声がかかる。
「余計なことに口を出す気はないが、ここの秩序だけは乱すんじゃないぞ? 分かってるよな?」
マサキは歩を止めることなく小さく頷くと、医務室のドアから出て行った。
「さぁて、意識もしっかりしているようだし、話して貰おうかな? こんな騒動起こした理由をね?」
さっきまでマサキが座っていた椅子に、医務官がドカッと腰を降ろす。
胸の前で腕を組んで、人の良さそうな笑みを浮かべた。