第7章 Order
「そっか…。大切な人、なんだね?」
”大切”?
そうかもしれないな…。
じゃなきゃ俺は、やってもない罪を自ら認めたりはしない。
翔のことを思って…
結果的に翔を泣かせたことには変わりはないが…
「…ねぇ、その”翔”ってさ、どんな奴だったの?」
言いながら、マサキの骨ばった手が、俺の頭をそっと撫でた。
この感覚…
いつも翔がしてくれたあの心地よさに似ている。
「…”超”が付くほど真面目な奴だよ」
裕福な家庭に生まれ、常にエリートコースを歩んできた翔。
将来を約束されたも同然な翔の人生。
なんの穢れもない翔の人生に、唯一の汚点があるとしたら、それは”俺”の存在なのかもしれない。
「ふ~ん、そっかぁ…」
マサキの表情が一瞬曇る。
「まだ…、愛してんの? …その、翔って人のこと」
曇ったままの顔を下向かせ、絞り出すように言うマサキの手に、少しだけ力が籠められる。
「もしさ、もしもだよ? もう愛してないならさ…」
俯いたままの顔を上げ、真剣な眼差しが俺を見据える。
「もう、忘れたよ…」
俺は俺自身に、精一杯の嘘を吐いた。
そして力の入らない腕を伸ばし、マサキの首に絡めると、マサキの驚いた顔をグッと引き寄せた。
カサカサに乾いた俺の唇に、マサキの唇がそっと触れた。