第7章 Order
俺の頬を濡らす幾筋もの涙を、マサキの指がそっと拭ってくれる。
「ごめ…心配、かけた…」
嗚咽交じりに絞り出した言葉に、マサキが無言で首を振る。
思えばいつだってマサキは俺の傍にいて、ここでの生活に馴染めずにいる俺を気にかけてくれていた。
マサキだけが…
「ありがと、マサキ…」
「気にすんなって。そんなことよりさ、”翔”って誰? サトシのいい人?」
そう言って親指をピンと立てて見せるマサキに、俺はクスリと笑ってしまう。
「あっ、サトシ笑ったぁ! オレ超ラッキーじゃん?」
「なんだ、ソレ?」
「サトシさ、ここへ来てから笑ったことなかったじゃん? だからさ、サトシの笑顔見れた俺は、超ラッキーな奴、ってこと」
そう言われてみればここへ収監されて約ひと月。
俺は笑顔の作り方すら忘れていたような気がする。
もっとも…
ここでの暮らしの中で、笑顔になれる瞬間なんて、ほんの一瞬だってなかったけど…
「翔は…俺の恋人”だった”人の名前だよ」
そう、もう恋人なんて呼んじゃいけないんだ。
「俺が心から愛した、ただ一人の人だ」
これまでも、そしてこれからも、翔以上に愛せる人なんていない。
翔だけ…