第6章 Alibi
事件当日…
難関とも言われる司法試験に一発で合格した俺は、知人の紹介もあって、業界では大手と言われる弁護士事務所に籍を置くことになった。
勿論、親父の事務所に籍を置くことだって可能ではあったが、それをしなかったのは智君との関係を親父に知られたくなかったから。
親父に知られれば、俺達の関係は終わる。
それだけは避けたかった。
俺が籍を置く”班目弁護士事務所”は大手企業の顧問弁護士を主に請け負う、民事事件を得意とする弁護士事務所だ。
その中で新人の俺は、毎日足を棒のようにして働いていた。
そんな日々の中、智君との時間を過ごせる週末の、僅かな時間だけが俺の至福の時になっていた。
疲れ果てた身体と、鉛のように重い鞄を手に、エレベーターを降りる。
どこからか漂って来るカレーの匂い。
その匂いに誘われる様に、さっきまで重たかった俺の足取りが途端に軽くなる。
ベルを鳴らすのももどかしく、鍵を開けて玄関ドアを開ける。
鞄を玄関先に放り出し、足早にキッチンへと向かう。
乱暴に開け放ったドアの向こうに、智君の笑顔を見た瞬間、俺の心臓は破裂しそうなぐらいに大きく高鳴った。
「おかえり。早かったね?」
「ただいま…」
言うが早いか俺は智君の華奢な身体を腕の中に納めた。