第6章 Alibi
深夜自宅に戻ると、上着を脱ぐこともせずベッドに転がり込む。
身体は重なる疲労で悲鳴を上げてるのに、不思議と眠たくはない。
少しでも眠らなきゃいけない…
そうは思っていても一向に睡魔が訪れる気配もなく…
仕方なく身体を起こし上着を脱ぐ。
ネクタイを抜き取り、上着と一緒にクローゼットに仕舞った。
ふとクローゼットの上段に視線を向けると、乱雑な中にあってそこだけが綺麗に整頓されている。
智君のための場所。
智君が泊まりに来た時のために、用意した着替え一式がそこに仕舞われている。
手を伸ばし、智君が好んでよく着ていたTシャツを一枚取り出す。
鼻を近づければ、微かに残る智君の匂い。
智君…、
君は今どうしてる?
一人で膝を抱えて泣いてるの?
強がってるけど、本当はとても泣き虫なの、俺知ってるよ?
智君の匂いの残るTシャツを胸に、薄暗い部屋をぐるりと見渡す。
君がいなくなってからすっかり散らかってしまった部屋…
その中に智君の面影を探す。
君がいつも座っていたソファー…
君が履いていたスリッパ…
君が使っていた揃いで買ったマグカップ…
君が包まっていたブランケット…
君と抱き合って眠ったベッド…
そのどこにも君はいない…
「智…」
壁に預けた背中がズルズルと滑っていく。
もう、涙の止め方も分からない…