第39章 Daylight
一頻りキスを交わし、漸くお互いの唇が離れた頃には、もうその場に立っていることすら出来なくて…
こんなつもりじゃなかったのに…
自分の情けなさを嘆きながらも、支えられるようにしてリビングへと入った。
「智君、あの…」
「飯…食うだろ? 用意出来てるから、先着替えて来いよ」
「…うん」
これ以上泣き顔を見られたくなくて、言いかけた言葉と絡む腕を振り切り、一人キッチンに立った。
いつまで経っても止まることのない涙を、何度も手の甲で拭う。
それでも堰を切ったように涙は溢れ続け…
「…っんだよこれ、何も見えねぇじゃん…」
滲む視界を恨めしく思いながら、鍋の中のカレーを掻き混ぜる。
その時、まだ洗剤の匂いが濃く残るスウェットの腕が俺を包み込んだ。
「一人で泣かないで?」
首筋にかかる息が…熱い…
「ちゃんと顔見せて?」
「やだ…」
「どうして?」
「だって今俺の顔…酷いことになってる…」
「いいから見せて? 俺、まだ帰って来てから智君の顔、まともに見れてない」
言われて初めて気がつく。
俺もまだ翔の顔…全然見れてねぇや…
「絶対笑うなよ?」
「笑わないよ」
翔の腕の中でクルリと身体の向きを変え、少し背の高い翔を見上げる。
その顔は、俺と同じくらい…いや、それ以上にグシャグシャになってて…
俺達は顔を見合わせ、思わず吹き出した。