第39章 Daylight
「貴方には本当に申し訳ないことをしました」
翔の母親はそう言って何度も俺に向かって頭を下げた。
「あの人は翔には特に厳しく接してたから、翔と親しくしている貴方の事が許せなかったのね…。でもまさか貴方にそんな酷いことをしていたなんて…」
俺が差し出したティッシュで時折目尻に溜まった水滴を拭いながら、翔の母親は一つ大きく息を吐き出した。
そして、
「本当にごめんなさい。謝って許されることではないけれど…、貴方には辛い思いをさせてしまったわね…」
再び頭を深々と下げた。
「頭上げて下さい…」
俺が辛い思いをしたのは間違いないこと…
だけど正直、そんなことは今更どうだっていい。
それに辛い思いをしたのは、何も俺だけじゃない、翔だって同じように苦しんだ筈だ。
「あの…、そんなことを言うためにわざわざこんな所まで?」
ただ謝罪のためだけだったら、まだ入院中の親父さんをほったらかして、何もここまで足を運ばなくても、電話や手紙だけでも十分済むこと。
何か他に理由がある筈だ。
「いえ、実は…」
そう言って翔の母親はバッグから、一枚の葉書を取り出し、テーブルの上に置いた。
「こんな物が届けられたので、まずは貴方に、と思ってね?」
俺は首を傾げつつも、その葉書を手に取ると、そこに書いてある文章に目を通した。
「あの、これって…」
その葉書は、翔の示談が成立したこと、そして釈放の日時が記されていた。
「虫のいい話だとは分かってるの。でも、あの子を迎えに行って上げてくれないかしら…」
「俺…が…、ですか?」
聞き返した俺に、翔の母親は少しやつれた顔で微笑みかけた。