第39章 Daylight
その後、俺は長瀬さんの薦めもあって、長瀬さんの工場で働きながら、ひたすら翔の帰りを待った。
本音を言えば、いくら侑李とは兄弟同然とは言え、仕事まで世話になるつもりは無かった。
でも冤罪…無実だと証明されても、世間の風当たりは強くて…
いくつかバイトの面接を受けたけど、どこも“ムショ上がり”を理由に不合格を言い渡してきた。
所詮世間なんてモンはそんなモンで…
ムショ上がりに加えてこの足だ…、俺みたいな人間、どこも使ってくれる筈ないか…
世間の冷たさを儚んだ時に、丁度長瀬さんからの一本の電話が入った。
俺の手先の器用さを買っての事だったけど、それも保護司の立場から、俺を案じての事だってことは、鈍感な俺でもすぐに分かった。
結局俺は長瀬さんの申し出を受け入れることにした。
翔が帰って来るまでに、真っ当な人間でありたかったから…
自分のせいで、俺の人生を台無しにしたと思って欲しくなかったから…
そうして出所から一月程が過ぎた頃、工場で機械油に塗れて汗を流す俺の元を、一人の女性が訪ねてきた。
俺は一目見た瞬間、それが翔の母親であることに気が付いた。
翔の母親は、応接室に通され、俺と対面した途端に、床に両手を着き、額を床に擦り付けた。
「ちょ…、何やってんすか…、頭上げて下さい…」
俺はどうしていいか分からず、ただただ突然の行動に狼狽えるばかりで、油塗れの手で翔の母親を抱き抱えるようにしてソファに座らせると、黙ってティッシュの箱を差し出した。