第39章 Daylight
松本と握手を交わし、振り向いた俺は、漸く岡田に向かって頭を下げた。
「岡田、お前には世話になった。お前がいなかったら俺は…」
「俺は俺の仕事をしたまでだ」
俺だけじゃない。
翔だって岡田がいなかったら、どうなっていたか分からない。
岡田がいたからこそ、俺達は…
「ところで翔は? 翔の件はどうなった?」
俺と侑李、そして翔が証拠として録音した音声データがきっかけになり、喜多川建設と、その関係者の元に家宅捜索が入ったことまでは、ニュースや新聞記事で見聞きしていた。
でも翔のことについては、どこも触れることなく、俺の耳に入って来ることはなかった。
「ああ、その件だが…、取り敢えず飯でも食いながら話そうか」
「それがいい、そうしましょうよ」
不精髭をたっぷり蓄えた顔を綻ばせ、長瀬さんが我先にと車に乗り込む。
まだろくに挨拶も礼もしてないのに…
「ほら、兄ちゃんも」
「あ、ああ、うん…」
侑李に背中を押されて車に乗り込んだ俺は、一番後ろのシートに身を埋めた。
隣には俺のパンチがよっぽど効いたのか、仏頂面の松本が長身を縮こませて座っている。
「そう言えば…、二宮はどうしてる?」
いつだったか、仮出所が近いと人伝に聞いたことがある。
「ああ、アイツならとっくに出所してるよ」
「そう…なんだ。連絡は? 取ってるんだろ?」
「まあ…な…」
そう言ったきり、松本は車窓に顔を向け、言葉を発することはなかった。
でもその横顔が、ほんのり赤らんでいるように見えるのは、多分俺の気のせいではない…と思う。