第39章 Daylight
特に会話をすることもなく侑李と歩いていると、不思議と懐かしさが込み上げてくる。
「あ、兄ちゃん、あの車」
少し先を歩く侑李が、振り向き様に一台の白いワンボックスカーを指差す。
すると運転席と後部のスライドドアが開き、長瀬さんと岡田、続けて細身の男が降り立った。
「松…本…?」
「潤くんね、今うちの工場に住み込みで働いてるの。知らなかった?」
いや、長瀬さんが保護司として松本のガラ受け人になったととは聞いていたけど、まさか長瀬さんの工場で、しかも住み込みなんて…想像もしていなかった。
「よっ、まずは”お疲れさん”てとこか?」
脱いだジャケットを、ポケットに突っ込んだ左腕に掛けたまま、岡田が右手を上げる。
でも俺はそれをあえて無視して岡田の前を通り過ぎると、松本の腹に拳を一発食らわせた。
「痛って…」
松本は当然のように腹を抱えてその場に蹲り、涙目になりながらも眼光鋭く俺を睨め上げた。
「これでお前が俺にしたこと帳消しにしてやる」
松本が俺にしたこと、それは例え俺を守るためという大義名分があったとしても、とても許せることじゃない。
あの時感じた恐怖と、無理矢理開いた身体を裂かれる痛みは、決して消えることなく、今でも俺の記憶に色濃く残っているんだから…
勿論、パンチ一つで簡単に帳消しに出来ることじゃないけど…
「あースッキリした。ほら立よ」
俺は松本に向かって右手を差し出した。
松本は俺の手を掴むと、ゆっくりと腰を上げ、苦笑いを浮かべた。
「お前、少しは加減しろよな」
そう言って笑った松本の左手は、腹を抱えたままだった。