第38章 Apology
「それではこれより最終陳述を行う。被告人は前え」
促され証言台に立った俺を、銀縁眼鏡が見下ろす。
そして両手を軽く握り締めると、少しだけ身を乗り出し、ゆっくりと口を開いた。
「被告人は何か言いたいことはありますか?」
とても穏やかな口調で問いかけられ、俺は銀縁眼鏡の奥にある目をしっかりと見つめ、首を横に振った。
「特にはありません。ただ…」
「ただ、なんです?」
「こうなってみて、初めて自分がどれだけの人に守られてるか…どれだけ愛されてるか…知ったような気がします」
今になって…
今だからこそ、心からそう思える。
「そうですか。では、判決を言い渡す前に、裁判長である私から一つ質問をしますが、宜しいですか?」
そう言った裁判官の目が、心做しか細められているように見えて、俺は小さく首を縦に振ると、丸めた背中をピンと伸ばした。
「被告人は自ら同性愛者だあることを隠すために、愛してもいない人と交際をした、と言いましたが、今でも隠したいと思っていますか? 自身が同性愛者であることを、まだ恥じていますか?」
「後悔…してます。それに…申し訳なかったとも…」
もし俺があの時、ちゃんと結に打ち明けていれば、もしかしたら彼女を巻き込むことはなかったのかもしれない、そう思うと悔しくて堪らない。
「それは彼女に対してだけですよね? では彼に対してはどう思っていますか?」
翔に対して…?
翔に対する気持ちは、今までも…そしてこれからも変わることはない。
「俺…は、彼と…翔と出会えたこと…、翔と愛し合えたことを誇りに思ってます」
翔を愛する気持ちだけは永遠だから…