第38章 Apology
息をすることすら忘れて、ただ壁にかかった時計を見つめていると、一秒が、一分にも一時間にも感じた。
もしかしたらこのまま永遠に時が進むことはないんじゃないか、って…
微かに残った翔の匂いが消え行くこの部屋から、もう出ることはないんじゃないか、って…
額に浮かんだ嫌な汗を、俄に痺れ始めた手で拭った。
「大丈夫か? 顔色悪いぞ?」
刑務官の問いかけに、強ばった笑顔を向ける。
「分からんでもないがな…、誰だってこの時間は緊張するもんだ」
俺の肩に置いた手が、俺の視界を揺らす。
その時、
「再開の時間だ。出なさい」
止まっていた時間をが、漸く動き出した。
「行くぞ」
二人の刑務官が俺の両脇を抱えた。
でも俺はそれをやんわりと払うと、強ばった右足を拳で叩き、のろのろと腰を上げた。
「行けるか?」
「ああ…」
俺は小さく答えて、ゆっくりと足を踏み出した。
一歩一歩確かめるように、足を前に進める。
そうして運命の扉の前に立った時、俺はそれまで俯いてばかりいた顔を上げた。
しっかりと前を見据え、開かれた扉の向こう側へと足を踏み入れると、不思議なくらいに身体が軽くなった。
被告人席に座り、ただその時だけを待つ。
その間も、あれ程強く感じていた緊張感が俺を支配することはなく、寧ろ清々しささえ感じていた。
そして正面の扉が開き、最後の審判を黒いローブの下に隠し、裁判官達が入廷してきた。