• テキストサイズ

Cage -檻ー【気象系サスペンスBL】

第38章 Apology


息をすることすら忘れて、ただ壁にかかった時計を見つめていると、一秒が、一分にも一時間にも感じた。

もしかしたらこのまま永遠に時が進むことはないんじゃないか、って…

微かに残った翔の匂いが消え行くこの部屋から、もう出ることはないんじゃないか、って…

額に浮かんだ嫌な汗を、俄に痺れ始めた手で拭った。

「大丈夫か? 顔色悪いぞ?」

刑務官の問いかけに、強ばった笑顔を向ける。

「分からんでもないがな…、誰だってこの時間は緊張するもんだ」

俺の肩に置いた手が、俺の視界を揺らす。

その時、

「再開の時間だ。出なさい」

止まっていた時間をが、漸く動き出した。

「行くぞ」

二人の刑務官が俺の両脇を抱えた。

でも俺はそれをやんわりと払うと、強ばった右足を拳で叩き、のろのろと腰を上げた。

「行けるか?」

「ああ…」

俺は小さく答えて、ゆっくりと足を踏み出した。

一歩一歩確かめるように、足を前に進める。

そうして運命の扉の前に立った時、俺はそれまで俯いてばかりいた顔を上げた。

しっかりと前を見据え、開かれた扉の向こう側へと足を踏み入れると、不思議なくらいに身体が軽くなった。

被告人席に座り、ただその時だけを待つ。

その間も、あれ程強く感じていた緊張感が俺を支配することはなく、寧ろ清々しささえ感じていた。

そして正面の扉が開き、最後の審判を黒いローブの下に隠し、裁判官達が入廷してきた。
/ 609ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp