第38章 Apology
愕然とする俺を他所に、岡田は更に言葉を続けた。
その度に検察官はおろか、裁判官までもが同情めいた視線を向けた。
そして岡田が息をスっと吸い込むと、
「弁護人からは以上です。どうか温情ある判決をお願いします」
裁判官と、その横に並ぶ裁判員に向かって軽く頭を下げた。
「検察側、反対尋問はありますか?」
裁判官の穏やかな口調に、検察官は緩く首を横に振り、
「検察側からは特にありません」
手元のファイルをパタン…と閉じた。
「ではこれより裁判官及び裁判員は最終審理に移るため、休廷とさせて頂きます」
黒いローブを纏った裁判官達が席を立ち、背後の開かれた扉の向こうに消えて行く。
俺はそれを目で追いながら、全身の力が抜けて行くのを感じていた。
終わった…
後はどんな判決が下るのか…それだけを待てばいい。
それだけで…
「立てるか?」
不意に声をかけられ、俺は慌てて顔を上げると、刑務官が二人、俺を挟むように立っていた。
「あ、はい…」
…とは言ったものの、元々不自由な右足は元より、自由な筈の左足までが言うことを聞かない。
「悪い…手ぇ、貸して貰ってもいいですか?」
もう自分の力では、立ち上がることは勿論、歩くことさえままならないくらい、疲労感だけが全身を支配していた。
二人の刑務官に両脇を支えられながら、通された部屋は…翔の匂いの残る狭く薄暗い、あの待合室だった。