第38章 Apology
あの時俺がもっと強く否定していれば…
そうしたらこんなことにはならなかった。
今更ながらの後悔の念に、胸が押し潰されそうになる。
俺は固く握り締めた拳はそのままに、奥歯をギリッと噛んで正面を見据えた。
その時、視界の端に僅かに映った岡田の目の奥が、僅かに光ったような気がした。
そして岡田はファイルから一枚の用紙を取り出すと、それを裁判官に向かって差し出した。
「ここで弁護人は、新たな証拠…弁〇号証を提示します。これは被告人である大野智さんの母親とされる人物の死亡診断書の写しです。記載の担当医師にも確認を取っているので、公的権力を持っていると考えて間違いはないと思われます」
死亡診断書…?
どういうことだ…
「この日付けをご覧下さい。この日付けを見る限り、事件発生当時、彼女はこの世に存在しなかった、と言うことになります」
嘘…だ…
母さんが死んでたなんて…
「嘘だ…、だってあの時あの弁護士は確かに…」
「被告人は静粛に」
取り乱した俺を、裁判官の落ち着き払った声が制する。
「認めたくはないだろうが、事実だ。騙されたんだよ…。現に貴方の母親の名前は、どの刑務所の名簿を探しても、一切出てこなかった。それともう一つ…、その時接見を申し出た弁護士は、櫻井俊氏と同じ事務所…つまり櫻井氏とは旧知の仲だそうだ」
「そん…な…」
どうしてそこまでしてあの人は…
嘘の事実を作り上げてまで、俺と翔を引き離したかったのか…
なんて卑怯な…