第38章 Apology
「坂本刑務官…今は懲戒免職になっているので、元刑務官ですが…、彼はその時の電話で何と? 記憶している範囲で構いませんので…」
「あの時は確か…」
言われて俺は、二度と思い出したくもない忌々しい記憶を掘り起こすように、固く拳を握り、奥歯をキツく噛んだ。
「金の話をしていたと思います」
「金、ですか?」
「報酬は幾らか、とか…そんな話を…」
アイツは俺をレイプする代わりに、翔の父親に大金を要求していた。
「ほお…、では貴方は先程電話の相手が櫻井俊氏であると言いましたが、それはどうしてですか? 貴方の発言だと、その事実を裏付けるような、明確な何かが“あった”とも取れますが…」
「それは…その…」
この先を言えば、きっと翔が傷付くことになる。
もうこれ以上翔を苦しめたくない。
どうすればいい…
なあ翔、俺はどうしたらいい?
徐々に混乱して行く頭の中に、翔の笑った顔を思い浮かべる。
すると不思議なことに、さっき待合室で嗅いだあの懐かしい匂いが、ふわっと俺を包み込んだような気がして…
そう…だよな…
一緒に戦うって決めたんだもんな?
分かったよ、翔…
「“お宅の息子の女”って…」
「もう一度お願いします」
「これで息子さんには近付かないだろう、って…。あんたの望み通りにしてやった、って…。坂本刑務官はハッキリそう言ってました」
翔…これでいいんだよな?
これで…