第37章 Oath
法廷内に、息をするのさえ憚られるような、重苦しい空気が流れた。
でも岡田はその沈黙さえ裂くように、深く長い息を吐き出すと、
「それが分かっていながら…、私はそれが悔やまれてならんのですよ…」
苦しい胸の内を吐露した。
何より仕事に私情を持ち込むことを嫌う岡田の性格を熟知しているからだろうか…、翔の目に涙が浮かぶ。
岡田に対しての謝罪の念なのか、それとも後悔なのか…、涙の理由は俺には分からないけれど…
「失礼しました」
咳払いをして、岡田が弁護人席へと戻る。
そして卓上に置かれた小さなビニールの袋を手に取った。
「ここで弁護人は新たな証拠として、弁十七号証を提示します」
岡田が手にしていたのは、スティック状の小型ICレコーダーだった。
「これからお聞かせする音声データは、証人が父親である櫻井俊氏を殺害しようと自宅に訪れた際に録音された物で、ここには櫻井俊氏が、息子である証人と、その恋人である被告人の関係を裂こうとした理由と、そして喜多川建設の関わりに言及している場面があります。お聞き下さい」
ICレコーダーのスイッチを入れる。
と、同時に流れ出す生々しい程の、聞き慣れた翔の声と、俺が初めて怖いと思ったあの男の、緊張感に満ちた会話。
俺は耳を塞ぎたくなる気持ちを抑え、瞼をギュッと固く閉じ、膝の上で固く結んだ拳に力を込めた。