第37章 Oath
開いた扉の向こうから、ゆっくりとさした足取りで入廷してきたのは、紺のスーツにサンダル履の翔だった。
翔は一瞬俺に視線を向けると、何事もなかったかのように付き添いの刑務官に両手を差し出した。
ガチャん、と嫌な音を響かせて翔の手首皿から手錠が外される。
その時になって漸く、翔の顔が少し和らいだように見えた。
「証人は前え」
「はい」
久しぶりに聞く翔の声…
たった一言なのに、それだけで俺の心臓がありえない速度で脈打ち始める。
「証人の氏名、生年月日、それから本籍地を述べなさい」
「櫻井翔、生年月日は…」
翔は裁判官に促されるまま、ハッキリとした口調で答えて行く。
そして現住所を問われた瞬間、微かに顔を強ばらせ、スっと息を吸ってから、自分が今現在身柄を拘束されている拘置所の住所を述べた。
仕方のないこと…
頭では分かっていても、出来ることなら翔の口から聞きたくはなかった。
俺のために…と思うと胸が締め付けられそうになるから…
「では宣誓を…」
「良心に従って、真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」
「宜しい。では弁護人、証人尋問を…」
岡田が右手をスっと上げ、ファイルを片手に弁護人席を立った。
そして翔の前に立つと、
「まず貴方と、被告人である大野智との関係を伺いたいのですが…」
岡田が翔の目を真っ直ぐに見据え、翔もそれに応えるように、小さく頷いてから、瞼をそっと伏せた。