第37章 Oath
「被告人は前へ」
裁判官に言われるまま俺は前へ進んだ。
シンと静まり返った法廷内に、俺の足を引き摺る音だけがやたらと響く。
「氏名と生年月日、本籍地と現住所を述べなさい」
「大野…智、生年月日は…」
俺は聞かれた通りのことを、時折声を詰まらせながら答えた。
緊張で震える手は、ズボンの端を握ることで堪えた。
検察官が事件の概要を、一つ一つ被疑者である俺の様子を窺いながら、順に説明して行く。
違う…、俺じゃない…!
俺はやってない…!
否定の言葉を何度も繰り返した。
一通りの説明が終わると、今度は裁判官が両手を結び、俺には黙秘権ってやつがあること、そして検察側の起訴状に偽りがないかを問いかけた。
その時になって漸く俺に発言が許される。
「俺はやっていません…」
俺は数段高い位置にいる裁判官の目を真っ直ぐに見つめ、ハッキリとした口調で答えた。
俺は今にも逃げ出しそうな弱い自分を押し殺し、精一杯の虚勢を張った。
そしていよいよ検察官による冒頭陳述が始まった。
検察官は分厚いファイルを手に、事件の経緯、被害者である結の人物像と、結と俺の関係、それから事件当日の俺の行動を、次々と早口で捲し立てた。
それはもう俺が口を挟む間もない勢いで…
尤も俺には、裁判官の許しがない限り、発言する権利はないんだけど…