第37章 Oath
着替えを済ませた俺は、その瞬間(とき)が来るのを、ベッドの端に座って待った。
瞼を閉じ、いつもは丸まってる背中をピンと伸ばし、耳を澄ました。
ただをじっと…
そうしてると、どこからともなくカツンカツンと、踵が硬い床を蹴る音が聞こえて来てくる。
少し前までは、怖くて仕方なかった足音が、今は待ち遠しく感じるから不思議だ。
「来た…」
音が止んだ瞬間、俺は瞼をパチリと開けて、壁の傷に手を伸ばした。
「行ってくる…」
見ててくれるよな、マサキ…
届くことの無い言葉を心の中で繰り返した。
返事なんて返ってきやしないのに、だ。
なのに…
『行って来い。頑張れよ』
マサキの声が聞こた気がして、俺は何の気なしに窓の外に視線を向けた。
そこには、さっきまであんなに激しく雨が降っていたなんて信じられないくらい、澄んだ青空が広がっていた。
「出ろ」
刑務官が鉄の扉を開く。
「はい…」
マサキに背中を押されるようにして腰を上げると、俺はすっかり顔馴染みになった刑務官に軽く頭を下げ、両手を揃えて前に出した。
「今日くらいは…と思わないわけじゃないが、一応決まりだからな」
刑務官の一人が言いながら、俺の手首に鉄の輪っかを嵌めた。
「もう慣れたよ」
本当は慣れたくなんかないけどな…
俺は自嘲気味に笑って、先を歩き出した刑務官の背中を見ながら、引き摺る足を一歩一歩前に進めた。