第37章 Oath
何故だか自分でも分からないけど、やたら目覚めの良い朝だった。
鉄格子の嵌った窓の外は、生憎の雨なのに…
心だけは、晴れ晴れとしていた。
「良く眠れたか?」
眠れたか、と問われれば答えはNoだ。
もう随分と会っていない翔に会えるんだと思ったら、妙に頭が冴えて、眠るどころではなかった。
それでも俺は心配顔の井ノ原を安心させたくて、
「まあな…」
と、受け取った体温計を脇に挟みながら返した。
「そうか、なら良かった」
井ノ原がベッドの端に腰を下ろす。
錆びたスプリングがギシッと軋み、俺はベッドが壊れちまうんじゃないかって不安になる。
「これが最後の診察かもな? 今日の裁判が上手く行ったら、お前は晴れて自由の身だからな…」
自由の身、か…
もし願いが叶うなら、高い塀で囲まれたここを出て自由になった時、隣には翔がいて欲しい…
俺の我儘…なのかな…
「よし、頑張って来い」
俺の背中を、井ノ原がゴツイ手でバシンと叩く。
「いって…。ちっとは加減しろや…」
涙目になりながら苦情を言う俺に、井ノ原が両手を合わせて笑う。
そっか…
俺はこの笑顔に何度も救われて来たんだよな…
もうこの顔を見ることもなくなるかもしれないと思うと、寂しさが無いわけじゃない。
「あのさ…、また世話になるかもしんねぇけどさ、一応言っとくわ…」
「ん、何をだ?」
井ノ原が間の抜けた声を出す。
「だからさ、その…ありがとうな…、色々と…」
心からの感謝を込めて、俺は井ノ原に向かって頭を下げた。