第36章 Hope
あと少しで接見時間が終わるって時になって、
「あの…ね、櫻井さん…」
そう言ったきり、余程言い難いことがあるのか、侑李は口を閉ざした。
「どうした? 俺に言いたいことがあるんだろ?」
急かすでもなく、穏やかな口調で侑李を促す。
すると何度か口をも御させた後、
「実はね…」
と、漸く硬い口を開いた。
「俺、櫻井さんのお父さんに、会ったことがあるんだ…」
「えっ…? 父さん…に…? いつ、どこで…?」
目の前で侑李が小さく頷き、俺から視線を逸らした。
一瞬嫌な予感が脳裏を過ぎる。
でもまさか…
あの父さんに限ってそんなことはない。
俺の勘が間違いであって欲しい…
そんな俺の願いは、侑李が発した一言で脆くも崩れ去った。
あの父さんが…?
信じられない…いや、信じたくない…
目に見えている世界がグニャリと歪んだ。
「櫻井さん? 大丈夫…ですか…?」
「あ、ああ…、大丈夫…。そっか…良く話してくれたね? このことは岡田には…?」
「一応義父さんを通じて…。ごめんなさい、俺本当は黙っていようかとも思ったんです。でもテレビであの人…櫻井さんのお父さんの顔を見て、つい…」
ごめんなさい…、と侑李は何度も俺に向かって頭を下げた。
謝る必要なんて何処にもありはしないのに…
侑李だって喜多川建設の私利私欲のために利用された、被害者の一人なのに…