第36章 Hope
そう言えば、と前置きしてから、佐田弁護士が手帳の中から一枚の写真を取り出した。
「コレ…で良かったですかね?」
見せられたのは、俺と智君が笑顔で写っている写真だった。
「いやー、苦労しましたよ。何せ持ち出せるような写真が殆ど残ってませんからね…」
汗など一滴もかいていないのに、大袈裟に額を拭う佐田弁護士に向かって頭を下げた。
「すみません、無理言って…」
俺と智君が写っている写真はそう多くない。
でもその大半が、証拠として押収されてしまっているから、このたった一枚の写真を手に入れることだって、簡単なことではなかった筈。
「コレで十分です」
智君の…俺が何より守りたかった智君の笑顔があれば…
それだけで俺は前を向ける。
「あ、それと着替えと一緒に何冊か小説も差し入れときますから。何とかって医療ミステリーの…、ほらアレだ…ブラックなんちゃらって…」
タイトルが思い出せないのか、佐田弁護士が隣の深山さんを肘で小突く。
でも深山さんはそれを意に介した様子もなく…
ノートをパタリと閉じると、リュックに突っ込んだ。
「さ、行きますよ?」
スっと席を立ち、佐田弁護士を見下ろす。
そして俺に向かって一言、
「また来ますね」
と言うと、まだ帰り支度の出来ていない佐田弁護士を残し、さっさと接見室を出て行った。
「まったく…、すいませんね…」
「い、いえ…。あ、ありが…と…う…、ってどっちが上司なんだか…」
転げるように接見室を出て行く佐田弁護士の背中に、俺は肩を揺らしながら頭を下げた。