第36章 Hope
分かった、と言ったきり、岡田がそのことを口にすることはなかった。
母さんが隣にいた、ってこともあるのかもしれないな…
「そう言えば…、お前の弁護、佐田さんがつくそうだな? 深山から聞いたぞ?」
「ああ、うん…。どうしても、って押し切られて…」
深山さんの上司ってことだから、佐田弁護士も相当な変わり者なのかもな…
しかも相手の懐に入り込むのが妙に上手いから中々だ。
「まああの二人に任せておけば安心だな。なんたって、業界ではちょっとした有名人だからな、あの二人…。いい意味でも悪い意味でも、な?」
「だろうな…?」
俺達はアクリル板越しに顔を見合わせて、ほぼ同時に吹き出した。
そんな俺達の様子を見て、母さんが目尻に溜まった涙を、ずっと握り締めていたハンカチで拭った。
「母さん…?」
「何でもないのよ…? ただね、久しぶりにあなたの笑った顔が見れて、安心しちゃったのね…。おかしいわね…」
ごめん母さん…
俺と父さんの間で、きっと母さんは苦しんだよね?
本当にごめん…
「時間だ」
面会時間の終了を告げる声が、無情に響く。
「あらもう…? あっという間なのね…。ねぇ、翔? また来ても良いかしら?」
岡田に促され席を立った母さんが俺を振り返り、俺を窺うように少しやつれた顔に笑を浮かべた。
でも俺は、
「もう来ないで? 俺より父さんの傍にいてあげてよ。俺は大丈夫だから」
首を横に振ると、決意が揺らがないよう、母さんと岡田に背を向けた。