第36章 Hope
「それより母さん、例の物は…」
俺が、父さんの怪我の状態や、この先の自分自身のことよりも気になっていたこと…
連行される間際、母さんのエプロンのポケットに捩じ込んだ、あのICレコーダーの行方が、一番の気がかりだった。
「あれなら…、もう…」
母さんが隣に座る岡田を見やる。
すると岡田はそれに応えるように頷き、
「心配するな、アレは俺が正式な手続きを踏んで、決定的な証拠として提出するから」
「良かった…」
「当たり前だろ? 人生棒に振ってまで手に入れた自白だからな。無駄には出来んよ」
人生…なんて大袈裟な物じゃない。
ただ智君を守るためなら、俺は何だって出来る。
例えこの身を地獄に堕とされても、だ…
「それと、だな…。これは俺の希望でもあるんだが…」
岡田が母さんをチラリと横目で見てから、妙に畏まった口調で言う。
「お前、大野のために証言台に立つ気はまだあるのか? いやな、大野もそれを気にしててだな…」
「智君…が?」
「まあ、アイツもお前さんのことが気になってんだろうな? 一目会えるなら、ってさ…」
俺だって智君に会いたい。
出来ることなら、今すぐにだって会って抱き締めたい。
いや、多くは望まない。
ただ一目会えるのなら…
そう思わないわけではないけど…、でも…
「少し…考えさせてくれないか? 勿論俺の証言が必要なのは分かってる。でも今はまだ…」
正直智君に会うのが怖い…