第36章 Hope
その後拘留期間の過ぎた俺は拘置所へと移送されることになった。
勿論、その間にも取り調べと接見は繰り返され、俺はその全てに、極めて誠実に応じた。
当然、表面的にはそう見えなくても、精神的には相当参っていた。
決して許されることの無い罪を冒したのだから、それも当然と言えば当然、なんだろうけど…
拘置所に移送されてから数日が過ぎた頃、岡田がある人を伴って俺の元を訪ねてきた。
その人に会った瞬間、俺はそれまで堪えていた物が堰を切ったように溢れ出し、声を上げて泣いた。
自分でも驚く程に…ね…
そんなオレを前にしても、その人は取り乱すことも無く、気丈に振舞っていた。
きっと俺以上に泣きたいだろうに…
それでも俺にそんなそぶりさえ見せず、ただいつもと変わらない、穏やかな笑を湛え、俺を気遣う言葉ばかりを何度も繰り返した。
父さんの期待を裏切り、与えてくれる無償の愛を踏み躙ったこの俺を、その人は更に大きな愛情で支えようと…
「ごめ…ん…、迷惑かけて…、ごめん…」
漸く絞り出した言葉は、俺が逮捕されてから、初めて口にした心からの謝罪の言葉だった。
でもその人は、
「謝るなら私にじゃなくて、あなたが罪を冒したことで悲しませた人達に謝罪なさい? 岡田さんにも、…大野さんにも、ね?」
「母…さん…」
「それにね、翔? 幾つになっても私はあなたの親だから…。子供の冒した罪は、親の罪でもあるの」
そう言って母さんは目を潤ませ、それでも屈託のない笑顔を俺に向けた。