第36章 Hope
俯いてしまった俺を、佐田弁護士がアクリル板の向こうから覗き込む。
「お気持ちは分かります。ただね、もしその時に、岡田さんが無理なら、どうしてこの深山にでも一言相談してくれなかったんですか? そうしたらこんなことにはならなかったんじゃないですか?」
佐田弁護士の言うことは尤もだった。
同僚だからって理由で岡田に言えなかったのなら、深山さんにだって言えた筈だ。
それに俺だってこうなることを想像しなかったわけじゃない。
心の奥底では結果は見えていたのに…
ちっぽけな俺のプライドがそうさせた、って言ったって、誰も納得はしてくれないだろうな…
「まあ済んでしまったことをどうこう言っても仕方ありませんからね。兎に角今後のことを考えないと…」
至って冷静な深山さんに、佐田弁護士は納得とばかりに大きく頷くと、再びファイルと手帳を開き、ペンを手にした。
「えー、まず…ですね、あなたに殺意があった以上、実刑は免れないと思って下さい」
「ええ、勿論です」
俺だって弁護士の端くれだ、大体の予想は出来る。
「まあ、幸いなことにお父様の怪我の状態もそう悪くないようですし…」
幸いなことに、か…
殺人と傷害とでは刑の重さだって変わって来るのは確かだ。
でも俺は…俺にとってはどちらもそう大して変わりゃしない。
寧ろあっさり死んでくれた方が、スッキリするのに…
父さんが意識を取り戻したと聞いた時、俺はそんな風に思っていた。