第36章 Hope
「なるほど…。では質問を変えましょうかね」
重くなった空気を払うためか、佐田弁護士が飄々とした口調で言う。
「えーっと…」
「あの、僕ずっと気になってたんですけど、いいですか?」
ファイルと手帳を交互に見る佐田弁護士を遮るように、深山さんが身を乗り出す。
ついこの間まで同じ案件に関わっていたからか、深山さんが何を言い出すのかを考えると、正直怖い…というか緊張する。
「喜多川と櫻井さんのお父さん…つまり櫻井弁護士の癒着に気付いたのって、因みにいつ頃なんですか?」
「それなら…多分侑李君から証言を得た頃だったと…」
あれはそうだ、丁度喜多川建設が関わったとされる事件を調べてる最中のことだった。
喜多川建設のホームページ内に、父さんの名前を見つけたのは…
尤も、父さんは何人かいる顧問弁護士の中の一人に過ぎなかったけど。
でも俺はその時何かを感じたんだ。
ある意味予感めいた物だったのかもしれないけれど…
「そんなに前から気付いてたのに、どうして同僚でもある岡田弁護士に相談しなかったんですか?」
「それ…は…」
何度も言おうと思った。
言えば自分が楽になれると思った。
でも言えなかった…いや、言えなかったんじゃない、言わなかったんだ。
父さんが…同じ弁護士を生業としている父さんが、まさか悪事に関わっているなんて、とても言えなかった。
俺は自分だけじゃなく、岡田のことも騙していたんだ。