第36章 Hope
櫻井家の長男…
そのことがどれだけ俺に重くのしかかっていたのか…
それでも幼い頃はそれが誇りでもあったんだ。
俺の父さんは立派な人なんだぞ、って…
周りの友達より、うんと贅沢な暮らしだってさせて貰った。
だから父さんが必要以上にかける期待に、俺は必死で応えようともしていた。
でも…
「全てが偽善だった。失意のどん底にいた智君に、救いの手を差し伸べたのも、全部…」
「それはどういう…?」
「言ったんです…。あんな物は虚像でしかないと…」
自らの弁護士としてのネームバリューを上げるため、そして俺から智君を引き離すためだった、と…
「許せなかった…。自分のために智君を利用した父さんが…、俺はずっと許せなかった…」
両膝の上で握ったこぶしが怒りに震え出す。
目頭は熱くなり、視界が歪んで見えた。
「大野さんはその事を…?」
佐田弁護士の落ち着いた声に、俺は首を横に振った。
言えるわけなんてなかった。
言えば俺自身が智君に見限られると思ってたから…
智君を失いたくなかった…
だから父さんに知られないよう、俺達は隠れて関係を続けた。
そのために反対を押し切って家だって出た。
そうすれば智君と隠れてコソコソ会うこともなくなる、って…
俺は自由を手に入れた気になってたんだ。
父さんには全てがお見通しだった、ってことすら気付かずにね…