第36章 Hope
不思議な感じがした。
今までは聴取をする側だった筈の俺が、今は“受ける側”にいるなんて…
人の人生なんて、どこでどう転がるか分からない、ってこういうことを言うんだ、と漠然と思っていた。
「それで、だね…。まず聞きたいのは、殺意の有無なんだが…。君も弁護士だったらなら分かると思うが、殺意があるかないかでは、量刑も変わって来るからね。その辺をハッキリしておきたいんだが…」
弁護士“だった”か…
俺が弁護士として正義を振りかざしていたのは、もう過去のことでしかないのか…
そう思うと、自分の冒した罪が、より一層重い物に感じた。
「殺意はありました。殺そうと思って、包丁を持って家を出ましたから…」
嘘をつくつもりは無い。
自分な罪を偽ったところで、いずれバレるんだから…
「そう…ですか…。では…」
「あのー、お父さんとの関係を聞かせて貰えますか?」
佐田弁護士を遮るように、深山さんが耳に手を当て身を乗り出す。
「出来れば生い立ちから…」
何度か接見の場に同席したから分かる、深山さん独特の切り口に、思わず笑いが込み上げる。
まさか俺が聞かれる立場になるとはな…、思ってもなかった。
「生い立ち…か…。うちは親父が弁護士だったこともあってか、多分普通の家庭よりは厳しく育てられたような気がするな…」
いつでも、どんな時でも、櫻井の名を穢すことだけはするな、が父さんの口癖だったから…