第35章 shrieking
「どうした、今日は随分と機嫌がいいな?」
最近になって刑務作業の場として任された医務室で、細かな医療器具の整理をする俺を、デスクに向かってPCのキーボードを叩く井ノ原が振り返った。
「別に…?」
答えた声は、自分でも分かるくらい、弾んでいた。
多分…だけど、翔が長野の勤務する刑務所に収監されると聞いて、胸の奥に痞えていた物が、少しだけ軽くなったから、じゃないかと思う。
「そんなことよりさ、最近長野と会ってないんだろ? 寂しがってたぜ?」
「な、何で…それを? っていうか、アイツ面会に来たのか?」
驚いた様子で、椅子ごと俺の前まで来ると、銀縁の眼鏡を外し、白衣の胸ポケットに入れた。
「えっ、知らなかった…とか?」
「全然…。第一、連絡もなかったし…」
マジかよ…
長野のことだから、てっきり井ノ原に連絡してると思ってたのに…
「そうか、そんなことを…。他には何も言ってなかったか?」
「いや、特には…。つか、俺に聞くより電話でもしてやりゃいいじゃん」
こんなトコでウダウダしてるより、その方がよっぽど手っ取り早い。
「まあそうなんだけどさ…、中々な…?」
頭をガシガシと掻いて、元々の困り顔を余計に困らせて井ノ原が笑う。
その様子に俺は、俺と翔が付き合い始めて直ぐの頃を思い出した。
お互い、友達から恋人になったばかりで、どこか照れがあったのか、電話すら出来なかった、あの頃を…