第35章 shrieking
作業を終え、房に戻った俺は、岡田に頼んで差し入れて貰った便箋を机に広げた。
手紙なんて滅多に書かないせいか、鉛筆を握った手が中々動かない。
一体何を書いたらいいのか、言葉すら浮かんでこない。
伝えたい言葉は、こんなにも胸の中に溢れてるのに…
それでもやっとの思いで手紙を書き終えると、それを丁寧に折り畳んで封筒に入れた。
宛名には当然のように翔の名前を書いた。
でも宛先は書いてない。
今はまだこの手紙を出すつもりはないから…
いつか、俺が見事冤罪を勝ち取り、この高い壁に囲まれた檻から出られた時…その時には…
封筒に入れた手紙を、卓机の引き出しの奥に仕舞い、鉄柵が嵌め込まれた窓を見上げる。
そこから見える空は、一点の曇りもない真っ青な空で、その空が、翔の見ている空とどこかで繋がっているんだと思うと、少しだけ嬉しかった。
俺は一人じゃない…。
勿論翔だってそうだ。
俺達はどこにいても、どんなに離れていても、いつだって心は共にあるんだ。
そうだよな、翔?
それから数ヶ月が経った頃、岡田が再び俺の元を訪ねて来た。
心做しか疲れているようにも見えたが、その表情はどこか自信に満ち溢れているようにも見えた。
そしてその手には、再審請求が無事通ったことを知らせる書面が握られていた。
翔…、あと少しだ…
もうすぐお前に会える…
『Shrieking』〜完〜