第35章 shrieking
一頻り笑って、長野がフッと息を吐き出す。
そして刑務官らしく姿勢を正した。
「坂本刑務官、覚えてるか?」
「坂本って、あの?」
あの悪夢のような時間は、忘れたくたってそう簡単に忘れられる筈もんじゃない。
酷く魘される夜だって、以前程ではないが、未だに無いわけじゃない。
「その坂本がどうしたんだよ…」
出来ることなら、名前すら口にしたくない。
「移動になったことは、お前も知ってるよな? どうもその移動先で、刑罰と称して受刑者に、その…何て言うか…」
急に口篭る長野。
その先は、聞かなくても大体想像がつく。
「性的暴行を繰り返した挙句、懲戒免職になったそうだ」
「そっか…。まあ、当然…だろうな」
坂本が俺をレイプしたのは、何も翔の親父と喜多川の指図ばかりが理由じゃない。
アイツが元々そういう性癖の持ち主だ、ってことは俺も薄々感じてはいた。
でなきゃ、金目的だかなんだか知らないが、あんなこと…出来ないから…
「で? わざわざそれを言うために面会に?」
「い、いや…、もう一つ…」
もっと俺が動揺すると思ったんだろうか…、長野は少しだけホッとしたように肩の力を抜いた。
「櫻井さんのこと…なんだけどな? どうやら俺の勤務してる刑務所に収監されらしい」
「翔が…?」
判決が出たことは岡田から聞いて知ってはいた。
でもまさか、翔が長野の…
「収監者名簿の中に、櫻井さんの名前があってな。本来なら規約に反することではあるんだが、お前に知らせておこうと思って…」
「こんな偶然てあんだな? まあでも、宜しく頼むよ。翔は俺の命よりも大切な奴だから…」
俺は長野に向かって頭を深々と下げた。