第35章 shrieking
数日後、俺は岡田の指示の元、再審申立書にサインをした。
中卒の俺には、難しいことだらけで、殆どが岡田に頼りっぱなしだったけど…
「よし、これを裁判所に提出さえすれば、後は…」
岡田は書類をファイルに挟むと、それを鞄の中に仕舞い、組んだ両腕をテーブルの上に乗せた。
「櫻井な、素直に取り調べに応じてるそうだ」
「そう…か…、良かった」
何が良かったのか分からないが、取り敢えずそう答える以外になかった。
「それと、櫻井の親父さんな…、意識が戻ったそうだ」
「そうなんだ…、意識が…」
これで翔が殺人犯にならなくて済む。
そう思ったら心からホッとした。
俺のために翔が殺人犯の汚名を着ることだけは、どうしても避けたかったから…
「後は、喜多川次第ってとこだろうな…。刑事、民事、両面での捜査が進んでるみたいだから。それでなくても公訴は免れんだろうが…」
岡田は深い溜息を漏らすと、組んだ腕を解き、胸のポケットからペン型のICレコーダーを取り出し、
「自白がある限り、言い逃れは出来んからな…」
小さなスイッチを親指で押した。
やがてそこから流れてきたのは、翔と、翔の親父さんとの、生々しいまでのやり取で…
「悪ぃ…、聞きたくねぇ…」
俺は思わず両耳を塞いだ。
「そうだな…。でも裁判になれば、嫌でも耳にすることにはなるがな…」
そう言った岡田の眉間に深い皺が寄る。
俺だけじゃない…
岡田もきっと苦しんでいる。
同じ目標を持った同僚と言う関係だけじゃなく、岡田が翔に対して特別な感情を抱いているのは、俺も気付いていたから…