第35章 shrieking
その晩、俺は久しぶりに夢を見た。
夢の中で俺は、翔の腕に抱かれて、とても幸せそうに笑っていた。
でもその幸せに満ち溢れた時間を、真っ暗な闇が切り裂いた。
闇は翔を俺の元から奪い去ろうとした。
連れてかないでくれ!
俺は何度も叫んだ。
声が枯れるまで、何度も何度も…
なのに…
翔が再び俺を抱きしめてくれることはなかった。
起床のベルが鳴り、眠りから目を覚ました俺は、そこで漸く自分が泣いていることに気が付いた。
俺のせいだ…
俺が翔を愛したから…
だから翔は穢れを知らないその手を罪に染めたんだ。
俺が…あの人の罠にさえ嵌まらなければ、こんな事にはならなかった。
なあ、俺は一体どうしたらいい?
このまま無実が証明され、シャバに出れたとしても、翔は…
「どうした? 気分でも悪いか?」
起床時間を過ぎてもベッドから起き上がることすら出来ない俺を、心配顔の井ノ原が覗き込む。
「いや…別に…」
翔の件を知ってから、何かと俺を気にかけてくれる井ノ原に、これ以上心配させたくなくて、無理矢理身体を起こそうとするけど…
思った以上に怠さの残る身体は思い通りにならなくて…
「はは…、情けねぇな…」
自嘲気味に笑って、今にも泣き出しそうな顔を両手で覆った。
「おいおい、どうした? そんなんじゃ櫻井さんのこと守れないぞ?」
「俺…が…? 翔を…?」
「違うのか? 俺はてっきり…。だって考えてもみろ。お前意外に誰があの人のこと守れるんだ?」
俺が翔を守る…?
そんなこと考えたこともなかった。
「出来る…かな、俺に…」
「出来るさ、お前ならな?」
「そっか、そうだよな? 俺しかいねぇよな、翔を守れるのは…」
目の前を覆っていた真っ黒な闇から、ほんの一筋の光が見えたような気がした。