第34章 Reason
けたたましく鳴り響くサイレンと、窓の外を赤く染める無数のランプ…
普段は至って静かな田舎町は、一瞬にして騒然とした。
書斎に担架が運び込まれ、床で苦痛に顔を歪めのたうち回る父さんの周りを救急隊員が囲んだ。
なんだ…、死んでなかったのか…
俺はその場でピクリともすることなく立ち尽くしていた。
「翔…、どうして…こんなこと…」
「母さん、ごめん…。でも俺…」
悲しませるようなことして…、ごめん…
でもこうする以外に、他に智君を救う方法が見つからなかったんだ…
「母さん、頼みがあるんだ。コレを岡田に…事務所に届けてくれないか?」
俺は胸がポケットからICレコーダーを取り出すと、母さんのエプロンのポケットに突っ込んだ。
その時、数人の警官と思われる人間が俺を取り囲んだ。
「君が?」
一人の警官が、担架で運ばれて行く父さんをチラリと見てから、俺の血に染まった両手を見下ろした。
「はい。俺がこの包丁で父さんを刺しました」
俺は両手首を揃えて、警官の前に突き出した。
すると二人の警官が目配せをして、俺の手首に金属で出来た輪を嵌めた。
「連れて行け」
警官が俺の両脇を固めるように、俺の背中を押した。
「翔…」
今にも泣き崩れそうになるのを、口元を両手で覆って堪える母さん。
「行って…来ます…」
「行ってらっしゃい…。後のことは心配しないで…」
俺は母さんに見送られながら、パトカーに乗り込んだ。