第34章 Reason
警官に挟まれてパトカーに乗り込んだ俺を、野次馬根性丸出しの観衆の目が見つめる。
自分の犯したこととはいえ、居心地がとても悪くて、その場から逃げ出したくなる。
そうか…、智君もあの時きっとこんな…
俺は智君が目の前で連行されて行った時の様を思い出して、クスリと笑った。
「どうした、何がおかしい?」
怪訝そうに俺の顔を覗き込む警察官。
それもそうだ、この先どうなるのかも分からないのに、例え自嘲だとしたって笑っていられる余裕なんてない筈だ。
「いえ、何でも…。ただ、恋人のことを思い出して…。俺の恋人もこうして観衆の目に晒されながら、パトカーに乗せられたんだな、って思ったら、ちょっとおかしくて…」
「ふん、良く分からんが、これでも被っとけ」
一人の警官が、手に持っていたパーカーのような物を、俺の頭からスッポリ被せかけた。
そうして俺を乗せたパトカーは、群がる野次馬を掻き分けるようにして、再びサイレンを響かせながら走り出した。
高校を卒業するまで住んだ家が遠ざかるのを感じながら、俺は一人家に残された母さんのことを思った…と言うよりは、母さんに託したICレコーダーの存在が気になって仕方がなかった。
どうか無事に岡田の元へ…
そうすれば、智君の無実は立証される筈。
困難だと言われる再審請求だって、通すことが出来る。
父さんの自白さえあれば…
全ては父さんが、俺と智君を引き離すために仕組んだ罠だと分かれば…
両手首に嵌められた鉄の輪を見つめながら、それだけを切に願っていた。
『Reason』〜完〜