第34章 Reason
そんなこと…
父さんはいとも簡単にそう言い放った。
あの一件で、どれだけの幼い子達が涙を流し、苦しんで来たことか…
そして成長してからも、大人達の醜い欲望の為に穢された身体と心の苦しみからは、決して逃れることはないだろうに…
それなのに“そんなこと“なんて…
酷い…酷過ぎる…
「皆…大人の勝手で捨てられた子達なのに…。皆散々大人達に苦しめられて来た子達なのに…」
「だからだよ。所詮親に捨てられた子だ。その身をどう使おうと、誰に咎められることもないし、何より、この先たった一人で生きて行くのに、術は必要だとは思わないか?」
なんてことを…
たった一人で生きて行かなければいけないからこそ、大人が…大人達が、正しく生きていけるよう、その術を教えなくてはいけないのに…
真っ直ぐに歩いて行けるように、道を示して上げなければいけないのに…
それが身を売ることだって?
冗談じゃない!
「父さん、あなたはそれでも…」
「弁護士か、と言いたいのだろ? くくく、まだまだ甘いな、翔は…。そんな安っぽい正義感ばかり振り翳しているようでは、この先弁護士としては大成できないぞ?」
父さんの手が俺の肩に触れる。
俺はその手を振り払った。
正義を守るために蓄えた白い羽根が、父さんが触れた場所から、どす黒く染まって行くような気がして、耐えられなかった。