• テキストサイズ

Cage -檻ー【気象系サスペンスBL】

第34章 Reason


「来るなら連絡くれれば良かったのに…」

久し振りに会ったその人は、いつまでも変わらない優しい笑顔で俺を迎えてくれた。

「ごめん、何かと忙しくてさ…」

そんない言い訳をしながら、その笑顔を俺が曇らせることになると思うと、心の中は申し訳なさでいっぱいだった。

「ゆっくりしていけるの? あ、晩御飯は?」

「ごめん…、あんまりゆっくりは出来ないかも…」

出来れば最期くらいは懐かしい味を…

そう思わないでもないが、きっと悲しい味しか記憶に残らないと思うと、その申し出を素直に受けることが躊躇われた。

「そうなの…。じゃあ、今お茶煎れるわね…」

伏せた瞼が、心做しか残念そうに見えるのは、俺の気のせいではないだろうな…

「ごめん、お茶はいいよ」

「あなたさっきから“ごめん”ばかりね? どうしたの、何かあった?」

自分ではそんなつもりはなかったけど、言われてみれば、ここに来てから俺の口から出てくるのは、謝罪の言葉ばかりだ。

「ううん、別に何も…。それより父さんは?」

「書斎にいるわよ?」

「…そう…、いるんだ?」

「そりゃいるでしょ? おかしな子ね」

俺はリビングと廊下とを隔てるガラス戸に目を向けた。

この先に“あの人”が…



心のどこかで願っていた。

いつかは決着を付けなきゃいけないって分かってる。

でも、出来ることなら家にいないで欲しい、と…



父さん…あなたの息の根を、俺のこの手で止めるなんてこと、本当はしたくなかった…
/ 609ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp