第34章 Reason
「来るなら連絡くれれば良かったのに…」
久し振りに会ったその人は、いつまでも変わらない優しい笑顔で俺を迎えてくれた。
「ごめん、何かと忙しくてさ…」
そんない言い訳をしながら、その笑顔を俺が曇らせることになると思うと、心の中は申し訳なさでいっぱいだった。
「ゆっくりしていけるの? あ、晩御飯は?」
「ごめん…、あんまりゆっくりは出来ないかも…」
出来れば最期くらいは懐かしい味を…
そう思わないでもないが、きっと悲しい味しか記憶に残らないと思うと、その申し出を素直に受けることが躊躇われた。
「そうなの…。じゃあ、今お茶煎れるわね…」
伏せた瞼が、心做しか残念そうに見えるのは、俺の気のせいではないだろうな…
「ごめん、お茶はいいよ」
「あなたさっきから“ごめん”ばかりね? どうしたの、何かあった?」
自分ではそんなつもりはなかったけど、言われてみれば、ここに来てから俺の口から出てくるのは、謝罪の言葉ばかりだ。
「ううん、別に何も…。それより父さんは?」
「書斎にいるわよ?」
「…そう…、いるんだ?」
「そりゃいるでしょ? おかしな子ね」
俺はリビングと廊下とを隔てるガラス戸に目を向けた。
この先に“あの人”が…
心のどこかで願っていた。
いつかは決着を付けなきゃいけないって分かってる。
でも、出来ることなら家にいないで欲しい、と…
父さん…あなたの息の根を、俺のこの手で止めるなんてこと、本当はしたくなかった…