第34章 Reason
ハンドルが汗で滑り、アクセルとブレーキを何度も踏み違えそうになる。
こんなんじゃ駄目だ…
丁度通りがかったコンビニの駐車場に車を突っ込むと、エンジンを止めることなく車を降りた。
缶コーヒーと、普段は滅多に吸うことのない煙草を買った。
再び車に乗り込み、缶コーヒーを一口啜ると、続けて煙草を口に咥えた。
ライターで火を点けると、狭く締め切った車内に煙草の煙が一気に立ち込めた。
こんな方法でしこ気持ちを落ち着かせることが出来ないなんて…
自分自身を情けなく思いながらも、それでも幾分かスッキリしたのを感じて、アクセルを踏み込んだ。
少しづつ…でも確実に目的の場所は近くなる。
「俺がやらなきゃ…。俺にしか出来ないんだ…、俺が終わらせないと…」
懐かしさを感じる車窓に目を配らせながら、何度となく同じ言葉を呟いた。
まるで呪文のように…
そうでもしていないと、そう簡単に揺らぐ筈がないと思った決心でさえ、簡単に揺らいでしまいそうだった。
俺は甘いから…
そしていよいよ目的地が見えて来た頃、俺はゴクリと唾を飲み込み、ハンドルを握る手に力を込めた。
駐車場に車を停め、そこから伸びる石畳のポーチを抜けた。
玄関ドアの前に立った俺は、まるで他人の家のようにインターホンを鳴らした。
『はい、どなた…、あら…』
聞こえてきたのは、小さい頃から変わらない優しい声で…
「ただいま…」
短く返すと、俺は玄関ノブを握った。