第33章 Scheme
それから程なくして再び解錠された扉から、いつも通りの涼しい顔をした東山と、若干眠そうな井ノ原が入って来た。
「良く…眠れたようだな」
東山は俺の顔を見るなり、唇の端を僅かに上げた。
「まあな…」
適当な返事を返した俺に、井ノ原から体温計が渡される。
「一応さ、決まりだから」
「分かってるよ…」
ムショにいたって、同じように繰り返される、毎朝の儀式みたいなもんだから…
「昨日も伝えたと思うが、今日は俺の立てたメニューをこなして貰うから、そのつもりで…」
面倒臭そうに体温計を脇に差し込んだ俺に、東山の目が眼鏡の向こう側で光る。
「マジかよ…。冗談じゃなかったのかよ…」
てっきりここにいるための口実だとばかり思っていたけど、翌々考えてみればれば、東山に限って冗談なんてモンは通じる筈がない。
「残念だが、冗談ではない。諦めるんだな」
心の中で小さく舌打ちした丁度その時、俺の脇の下で体温計がピッと機械音を鳴らした。
「うーん…、ちょっと微熱っぽいかな…。でもこの程度なら大丈夫そうですね」
俺の手から受け取った体温計を東山の前に差し出し、井ノ原がクリップボードに挟んだカルテを捲った。
「そうだな。まあ、昨日は随分とお楽しみのようだったし…、想定内といったところだな」
顔を赤くした俺達に、東山の氷の微笑が交互に向けられた。